後藤 有美 / Yumi Goto

 『見立てるということ』

2020年10月24日(土)〜 2020年11月29日(日)
月・火休廊


後藤有美展
「見立てるということ」にいたるまで
小金沢智(キュレーター/東北芸術工科大学芸術学部日本画コース専任講師)

私と後藤有美さんの作品との出会いはモニターだった。東北芸術工科大学芸術学部美術科工芸コース准教授(現・教授)の深井聡一郎さんが、卒業制作展開催中の2019年2月8日、ゼミ生の紹介として後藤さんの作品をこのようにツィートしていたことを覚えている。

「後藤有美は誰もが知る画家の静物画中に描かれた陶磁器の表面に、その陶磁器以外の部分を落とし込んでいる。絵画はPC上で検索されモニターに映し出されたものを使う事からピクセルを意識して練り込みされている。それは彼女が、全ての物質は何かの集合体でできているというコンセプトからだ」

投稿に紐づけられた画像は2点。モザイク状の花瓶らしき陶磁器1点の全体と、発表された全3点が作品の数倍はあろうかという大きな展示ケースに展示されているさまである。深井さんの投稿から考えれば、これら陶磁器の形態は、誰かしらの絵画に描かれた花瓶であり壺の引用であり、さらに表面の色彩は、絵画上の陶磁器以外の色彩を反映したものということだ。既存のイメージの流用という点でそれはシミュレーショニズムの発想にほかならないが、物質としての絵画が、写真=画像となり、インターネットでのイメージの流通を介して、陶磁器としての物質に変質するという複雑な過程に私は惹かれた。いささか大仰に設えられた展示ケースも、その変質の象徴のように思えたのである。




“Modern Vanitas ”

2019年2月の卒展、3月の「3331 ART FAIR 2019」東北芸術工科大学ブースと続けて作品を実見した私は、その後しばらくして「3331 ART FAIR 2020」に後藤さんを推薦し、さらにKIDO Press木戸均さんへもその作品の面白さをお話ししたところ、このたびの個展が実現することになった。既存の絵画の形態と色彩にひとまず根拠づけられていると言っていい後藤さんの陶磁器が、絵画のメディアの一種である版画の工房で展示されるこの展開に、私は興奮を隠せないでいる(とは言っても、木戸さんのギャラリーの展示は版画家にかぎらず、現代美術の領域でさまざまなメディアを用いるアーティストが多いのだが)。
何度かの話し合いを経て、(当初は、版画工房だからといって必ずしも版画を主題にする必要はないと木戸さんからのアドバイスもあったのだが)、最終的に後藤さんは、版画というメディアを自分なりに解釈し、作品で展開させることに決めたという。おそらく本展では、練り込みの技法を同様に用いながら、「絵画のイメージ」を用いる作品と、「その絵画を、自ら版画におこしたと想定して生まれるイメージ」を用いる作品によって、あるひとつのイメージが作家の手でメディアを変えながら、しかし陶磁器だからこその焼成という作家の手を離れる工程も経ながら、まさしく転々としたさまが展観されるのではないか。そしてそのさまは、シミュレーショニズムによるオリジナルへの批評性というよりもむしろ、この世界に既にあるさまざまなイメージと真剣に戯れることへのひそやかな誘いのように、私には感じられてならない。
コロナ禍の困難が社会を覆っているものの、可能であればモニター越しではなく、実作品をご覧いただきたいと切に思う。
《作家コメント》
ディスプレイ上の画像を構成するピクセルの集まりが、練込のように見えたことをきっかけに、陶芸と絵画を重ね始めました。
今回は2018年当初の作品と共に、新作の絵画と、「接することで形成される線」に着目した意欲作を展示します。 後藤有美                                                     

* 練込 2種類以上の異なる色の土を混ぜ、模様のある生地土を作り、成形する技法。



”   
“フィンセント・ファン・ゴッホの絵”

<作家紹介>

1997年 宮城県生まれ
2019年 東北芸術工科大学芸術学部美術科工芸コース卒業
2019年 「3331 ART FAIR 2019」[TOHOKU CALLING]に出品、東京
2020年 東北芸術工科大学工芸コース研究生終了
2020年 「TUAD ART-LINKS 2020@Takashimaya shinjuku」出展、東京
2020年 「3331 ART FAIR 2020」出展、東京














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