キドプレスの歩み

2015年6月26日(金)〜 2015年8月7日(金)
月・火・祝日は休廊


<展示作家>

Jasper Johns


1986年から1994年までニューヨークを代表する版画工房の一つである「Universal Limited Art Editions (ULAE)」において「Master Printer」として活躍した木戸均が2002年に立ち上げた版画工房キドプレス。熱気に満ちた1980年代のニューヨークを出発点として現在に至るまでの「キドプレスの歩み」をシリーズ形式の展示でご紹介します。
第一部は、ニューヨークのULAEで、木戸均がジャスパー・ジョーンズをはじめ、ロバート・ラウシェンバーグ、ジム・ダイン、キキ・スミスなど、数多くの伝説的なアーティストたちと出会い、工房で共に版画制作をしたニューヨーク時代に光を当てます。 ULAEによるジャスパー・ジョーンズの版画作品から厳選した1990年代の貴重なプリントを展示・販売いたします。

この機会にご高覧ください。


<作家紹介>
ジャスパー・ジョーンズ (Jasper Johns)
1980年代後半から1990年代にかけてジャスパー・ジョーンズの作品が世界的に高く評価されていく一方で、その作風にはある変化が訪れます。 1986年、ニューヨーク近代美術館で1960年から1985年にかけて制作された版画(およそ150点)と絵画作品による「Jasper Johns: A Print Retrospective」展が開催されて大きな話題となります。しかし、ジャスパー・ジョーンズはこの成功に甘んじることなく、翌1987年にレオ・キャステリ・ギャラリーで開かれた新作展でこれまでの代表作とは全く異なった展開を見せる「四季」というシリーズを発表します。この「四季」シリーズ以降、ジャスパー・ジョーンズの版画は大きなターニング・ポイントを迎えます。 本展で紹介する1990年代の版画には、ジャスパー・ジョーンズが美術史から名画の一部を引用しながら、自作や他の芸術家の作品の断片、いくつもの要素と空間が複雑なレイヤーとなって重ね合わされているという特色が見られます。例えば、ジャスパー・ジョーンズは、グリューネヴァルトのイーゼンハイム祭壇画、ホルバインの「キツネザルを抱く貴公子の肖像」といった過去の名作から借用した図像に手を加え、そこに個人的な意味合いが生じて、それらが他と共鳴し合いながら、自作の中に取り込まれていくというプロセスに重要な意義を見出していました。それは1982年のジャスパー・ジョーンズが自作について語った言葉からも伝わってきます。 「ある物を目にしたことがきっかけとなって、何か別の物をつくり出したいという意欲に駆られることがある。過去に見たものが、新作の主題に関係してくる場合がある。また、絵と絵の間には共通点が多く、制作という作業そのものが他の絵を思い出すきっかけになり得る。この、他の絵という亡霊にとり憑かれたら、とにかくその名をはっきりと特定するか、もしくは、描いてみるしかその呪縛から逃れる手立てはない。― ジャスパー・ジョーンズ」 * Richard Francis, Jasper Johns (New York: Abbeville Press, Modern Masters Series, 1984, p.98)に引用されたジャスパー・ジョーンズの言葉。日本語訳:斉藤泰嘉(東京都現代美術館「ジャスパー・ジョーンズ展」カタログ 日本語版、読売新聞社、1997年、p.39より) このようなジャスパー・ジョーンズの晩年における重要な変化について、グリューネヴァルトやホルバインの作品との関係性が指摘される版画作品を中心に、旗や数字のような「すでによく知られている事物からの引用」から「すでによく知られている名作からの引用」へと展開していく流れをご紹介します。ぜひご高覧ください。

jasperuntitled
『untitled』1997年、エッチング、アクアチント 508 x 654 mm (paper size)


jasperafter
『After Holbein』 1994年 リトグラフ 819 x 635mm (paper size)

untitiled1994
『Untitled』1994年、リトグラフ、921 x 775 mm(paper size)

<作家紹介>

1930 アメリカのジョージア州オーガスタに生まれる。
1958 レオ・キャステリ・ギャラリーで歴史に残る鮮烈な個展デビューを飾る。
1960 Universal Limited Art Editions (ULAE)設立者のタチアナ・グロスマンの誘いで、初めてリトグラフ版画を制作する。
1970 フィラデルフィア美術館で「Jasper Johns: Prints 1960-1970」が開催され、これまでの版画作品を網羅したカタログが刊行される。また、ニューヨーク近代美術館では「Jasper Johns: Lithographs」が開催される。
1986 ニューヨーク近代美術館で「Jasper Johns: A Print Retrospective」が開催され、ヨーロッパ、アメリカ、日本など世界各地を巡回。(〜1988年)
1987 レオ・キャステリ・ギャラリーで「Jasper Johns: The Seasons」が開催される。
1988 第43回ヴェネツィア・ビエンナーレ(アメリカ館)で金獅子賞を受賞。同年、日本で初めて大規模なジャスパー・ジョーンズの版画作品における回顧展が開かれる。(この「ジャスパー・ジョーンズ 版画 1960−1986」展は、ニューヨーク近代美術館で1986年に開催された「Jasper Johns: A Print Retrospective」の国際巡回展として、日本では原美術館、国立国際美術館、北九州市立美術館を巡回した。)
1996 ニューヨーク近代美術館でレトロスペクティブが開催。ルドヴィヒ美術館(ケルン)、東京都現代美術館を巡回。絵画、彫刻、素描、版画など、ジャスパー・ジョーンズの多岐にわたる長年の活動を網羅した回顧展となった。(〜1997年)
   
   
   
* この略歴は、本展に関連したジャスパー・ジョーンズの版画作品にまつわる活動や出来事を中心にまとめられたものです。













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