Editions Vol.3
Jim Dine & Ja
ne Hammond

2009.11.28 Sat. - 12.26 Sat. 12:00 -19:00

Closed on Sunday, Monday and public holidays  





jerusalem_plant8

Jim Dine "Jerusalem Plant #8" / 1984

 

 

clownsuit

Jane Hammond "Clown Suit" / 1995

 

<展覧会と作家の紹介>

 美術評論的な表現をあえて無視して言うと、対象を小気味良く「エイヤッ!」と描いてしまう、ジム・ダイン。
そのモチーフも、これもまたあえて、美術評論的な表現を無視して言えば、「ありふれた日用品」ばかりで、今回展示する「エルサレムの植物」もそれはたぶん、自分の肖像や奥さんの肖像までをも含めた「ありふれた日用品」の一部であるに違いない。
 彼は、「エルサレムの植物」のシリーズ8作目に用意された銅版を前に、しばし考え、迷うことなく「エイヤッ。」っと、またたく間に、シュガーリフト(銅版画の描画材料の一つ)で、描きあげてしまったに違いない。
 その描画時間は、一時間を越えることはなく、「OK! It's done.」の声と共にダインは、工房をあとにするのだ。
まことにイサギよく、かっこいい。

 その後、彼の作品を担当するプリンターの製版という名の格闘は、一時間ですむはずもなく、数日を要してようやく始めての試し刷りをジム(ULAE代表)に見せられる状態になる。
それを観ながら、ジムから矢つぎ早の指示が飛ぶのだ。この作品の場合、銅版のあとに3版のリトグラフを加えることになる。
 彼の判断はいつも驚くほど迅速で、それは、「絵画は一瞥である。」と言う原理を、制作を通し身をもって表しているといえるのではないだろうか。

 かたや、ジェーン・ハモンド。
この国では、それほど知られていない彼女もまた、ポップな題材を鍋料理を作るかのごとく、ふんだんに放り込んで、作品を見事に仕上げてしまう、稀有な能力に満ちた作家である。
 今回展示する「Clown Suit」(ピエロの衣装)にも、さまざまなイメージのコラージュが無数にちりばめられていて、それは、作家の時系列的な体験の痕跡とも取れるような揶揄(やゆ)に富んだオブジェによって構成されている。

 今回の展示は、わずか2点だけです。毎回よく聞く、「あれ?これだけ〜?」は、言いっこなしということで。(笑)
作品をご堪能していただけたら幸いです。ぜひ、この機会にご高覧下さい。

    (これらの版画を制作した版画工房ULAEのプリンターだった)
木戸 均

 

Jim Dine ジム・ダイン

1935年 オハイオ州シンシナティ生まれ。
1958年オハイオ大学で美術学士号を取得卒業し、翌年ニューヨークへ移る。
アラン・カプロー、ジョン・ケージ等と出会い、1960年までハプニングと呼ばれる非再現のパフォーマンスを多く行い、美術界での賞賛を得る。彼はまた、自身の代理物としての道具、衣料品、日用品をペインティングやドローイングに描き始める。
1962年パサディナ・ミュージアムにおいて、重要な展覧会となる『ありふれたものについての新しい絵画(New Painting of Common Objects)』展に出品する。この展覧会は歴史的にアメリカで最初に行われた、ポップアート展覧会の1つと考えられている。その後も、著名なマーサ・ジャクソン・ギャラリーにて個展を開催し、成功を収める。

1962年には、家具や家庭内のものを描いたダインの最初の版画作品が仕上げられた。抽象表現主義の反動から影響を受けた、自由な作風で描かれている。石版2版のリトグラフ『11の部分からなる自画』は自分の代替としてバスローブのイメージを取り上げた多くの作品のうち、最初の作品となった。

 今回展示されているJerusalem Plantのもとなるドローイングは、1980年にダインがイエルサレムに滞在していた頃描かれ、その後木版でも作られ、1984年にはリトグラフによって描かれた。植木というありふれたモチーフが、ダインの力強い線と、ダイナミックな構成で、1メートル程の巨大な画面に描かれ、圧倒的な存在感を放っている。

 

Jane Hammond ジェーン・ハモンド

1950年 ブリジットポート(米)生まれ。
1972年よりマサチューセッツ州のマウント・ホリオーク・カレッジで詩と生物学を学び、芸術学士号を取得。
1974年アリゾナ州立大学を卒業後、1979年マディソンのウィスコンシン州立大学で、彫刻を学び修士号を取得。
テンプのアリゾナ州立大学で、陶芸を学んだ後、ニューヨークへ移る。
現在ニューヨーク在住。

 錬金術、動物、宗教、骨相学の図表、また教育や科学の小冊子、子供のための本、プペットやマジックに関する本からも図像を収集するようになり、集められた中から後の作品の主題となる276個のシンボルマークが選ばれている。このマークを用いて表現されるハモンドの作品は、観る人の興味や関心を感覚的に惹き付け、その人の記憶や判断にまで
訴えかける不思議な魅力をもっている。

1989年 にはアメリカのオルタナティヴ・スペース、“イグジット・アート”にて個展を開催。 同年、全米芸術基金およびルイス・コンフォート・ティファニー・ファンデーション、芸術に関するニューヨーク州評議会研究助成金を受ける。
2002年にはホイットニー美術館にてインスタレーション作品を発表。これまでに、アメリカを始め、スペイン、イギリス、オランダなどヨーロッパの各地にて個展及びグループ展を開催している。また、ハモンドの作品は、ホイットニー美術館、メトロポリタン美術館、アート・インスティチュート・オブ・シカゴ、パリの国立図書館、ブルックリン美術館、ホノルル現代美術館他、世界各国多くの美術施設に所蔵されている。

1989年ULAEに招待され、モノプリントの実験的な制作を行った後、彼女のトレードマークである図像の複雑な重層的構成を実現するために、リトグラフ、シルクスクリーン、インタリオ(銅版画)、コラージュなどの手法を組み合わせる方向に転じている。

 今回展示されている作品は1995年にULAE*で制作された、ハモンドらしいユニークで遊び心たっぷりの立体作品である。華やかに刷られた版画が、立体的に縫製され、ピエロ・スーツとなって中に浮かんでいる。

*)ULAE(Universal Limited Art Editions)とは、1957年にタチアナ・グロスマンによってニューヨーク州ロングアイランド、ウェスト・アイスリップに設立された、アメリカ現代版画を代表する工房の一つ。